朝、9時30分。
僕は悩んでいた。
このまま家にいるべきか。近くのスーパー銭湯にいくべきか。
3月1日とはいえ、まだまだ外は寒い。このまま家にいれば、寒い思いをしなくてすむ。
昨日の夜は仕事。
夜中にバイクに乗っていると、まだまだ厳しい寒さだ。真冬なのかと思うくらいに、風が冷たい。冷たい風をうけると、体感でマイナス2度くらい冷えるらしい。身体の芯からこごえる。もう寒い冬はこりごりである。
ええいままよ、と僕は立ち上がった。このままでは何も変わらない。スーパー銭湯に行くことにした。
自転車でいけば身体も温かくなるだろう。
スーパー銭湯は、ここから5キロほどのところにある。30分くらいあればつくかなと思ったが、道路が混んでなかったので、20分でついてしまった。
自転車に乗っていると、ところどころにピンクや白の花が咲いている。なんときれいな花なんだろう。梅の花だろうか。もも色の花はやはり目立つ。人工的な色とはちがう、淡く、生命力にあふれる色だ。晴れた青い空とのコントラストも素晴らしい。
住宅街を抜けて、おおきな池のある公園の脇を通った。ここには水鳥たちが住んでいる。鴨なのか、アヒルなのか分からない、白い鳥が池に浮かんでいた。なんという鳥だろうか。
きれいな景色をみて、僕の心はおどった。風も冷たくなく、おもったより空気も温かい。やはり外に出てみるものだ。
スーパー銭湯も気持ちよかった。温かいお湯は、身体をぽかぽかと温める。
帰りみちも、おおきな池のある公園を通った。池のそばで咲く、梅の花がきれいだった。
道路の脇に自転車を止めて、写真をとる。
写真を取り終え、自転車に戻ろうとすると、スーツを着た、小奇麗な帽子をかぶった老人がそこに立っていた。
「ここは◯◯公園ですか?」
「ええ、そうです。」と僕は答える。
「こっちに行けば、どこに行きますか?」
僕はこのあたりの土地に詳しくなかったが、だいたいの地名は覚えていたので、その名前を言った。
老人は、土地勘がないのか、その地名に何の反応もしなかった。
「どちらへ行きたいんですか?」僕は聞いてみることにした。
「実は福島から葬式でこちらに来まして。妹の家を探しているんです。」
「そうですか、、。住所などはわかりますか?」
老人はメモらしきものを持っていて、それを広げて見せてくれた。みると、◯◯公園、◯◯駅、など大まかな場所しか書いていない。ずいぶんアバウトな住所だ。
どうしたものかな、、と思っていたら、「すいませんが、電話を持ってますか?」と老人に聞かれた。
電話番号は覚えているらしい。老人がいう電話番号にかけてみる。よかった、つながった。
「おう、おれだ!いま◯◯公園にいるんだが、迷ってしまった。いま若いお兄さんに電話機借りて、電話してるんだよ!!」
ずいぶん大きな声だな。どうやら妹さんにつながったらしい。ここまで迎えに来てくれるようだ。
おじいさんから、感謝の言葉をいただいた。人助けは気持ちいい。とくにこんな天気のいい日だったらば。
「よかったですね!」
僕はそう言って、家へ向かう。
そんな午前中でした。梅の花もきれいですね。桜もそのうち咲きますね。